祖母のアルバムを見せてもらったら、写真の裏にフィレンツェと書いてあった
2026年6月13日
祖母の家に行ったら、押し入れの奥から古いアルバムを一冊だけ出してきて、見せてくれました。
ふだんは昔の話をまったくしない人です。
めずらしいなと思いながら、隣に座って、一緒にめくりました。
写真の祖母は、今よりずっと若くて、二十歳そこそこに見えます。
石造りの橋の前で、知らない男の人と並んで笑っていました。
二人とも少しまぶしそうで、橋の下では川が光っています。
「これ、どこの橋なの」と聞いたら、祖母は少しだけ黙って、「忘れた」と言って、お茶をいれに台所へ立っていきました。
祖母がいないあいだに、つい、写真を裏返してみました。
薄い鉛筆の字で、「フィレンツェ」と書いてありました。
あの祖母が、フィレンツェにいた。
あの橋は、たぶんポンテ・ヴェッキオです。
私が裏を見たことに、祖母はたぶん気づいていません。
お茶を持って戻ってきた祖母は、湯のみを置くと、しばらく写真をじっと見ていました。
それから、ぽつり、ぽつりと、話しはじめました。
家族の誰も知らない話で、私も、この日まで知りませんでした。
ここから先は、有料にさせてください。祖母が話してくれたことを、軽く書いてしまいたくなかったので。
